身近な家庭用品による子どもの誤飲・誤食事故が多数発生し、社会問題となっている。そこで、実態を明らかにし、具体的な防止策などについて語り合う座談会が4月8日(水)、読売新聞東京本社で行われた。子育て中のプロゴルファー、東尾理子さんが自身の体験談を語り、医師や消費者団体、中毒情報の専門機関、企業担当者らが保護者への注意喚起、情報提供や連携したサポートの重要性、製品の安全対策などそれぞれの取り組みについて意見交換した。

※採録は、2015年5月16日(土)の読売新聞朝刊に掲載しました

出席者のご紹介

山中 龍宏さん

医師 / 緑園こどもクリニック院長

1974年東京大学医学部卒業。小児科医。99年より緑園こどもクリニック院長。85年にプール排水口に吸い込まれた中学生を看取(みと)ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、産業技術総合研究所客員研究員、NPO法人Safe Kids Japan理事長。

東尾 理子さん

プロゴルファー

8歳でゴルフを始め、1999年にプロ入り。2009年に俳優の石田純一氏と入籍。12年に出産し、1児の母。現在はゴルフ以外でも、バラエティー番組やCM出演など、多方面で活躍中。13年4月には「第1回マタニティ・オブ・ザ・イヤー」を受賞。

波多野 弥生さん

薬剤師
公益財団法人
日本中毒情報センター

化学メーカーを経て、1998年より日本中毒情報センター。中毒事故に関する情報収集と情報共有に力を入れている。薬学部で学んだ化学全般の知識、メーカー勤務で得た安全に対する意識、また生活者としての体験が、今の仕事につながっている。

杉本 まさ子さん

公益社団法人 日本消費生活
アドバイザー・コンサルタント・
相談員協会 常任顧問

消費生活コンサルタント。公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)理事として消費生活に関わる活動。パンフレット「子どもを守ろう〜誤飲は防げる〜」をグループで作成。

熊谷 善敏さん

P&Gジャパン株式会社
研究開発本部 法規・安全性統括部

ファブリック・アンド・ホームケアに関する法規・安全性担当として、P&Gの衣料用洗剤・柔軟剤、台所用洗剤などが法や規制を遵守していること、また製品やその成分が人にも環境にも安全であることを確認している。

コーディネーター

宮地 泉

読売新聞東京本社
編集局生活部部長

団体の紹介

公益財団法人
日本中毒情報センター

わが国の医療の向上を目的とし、急性中毒を専門として情報収集と整備、情報提供などを行う機関。茨城県と大阪府の2か所にある電話相談窓口「中毒110番」では、実際に急性中毒事故が発生した場合に限定し、365日24時間、家庭や医療従事者からの相談に対して、薬剤師が情報提供を行っている。対象とする物質は、たばこ、化粧品、洗剤、殺虫剤など家庭で使用される化学製品(家庭用品)、医薬品、農薬、化学薬品、自然毒など多岐にわたる。詳しくは日本中毒情報センターホームページまで。

団体のホームページへ

公益社団法人
日本消費生活
アドバイザー・
コンサルタント・
相談員協会

NACSは1988年に設立され、消費生活アドバイザー、消費生活コンサルタント、消費生活専門相談員の有資格者で構成する「消費生活に関する我が国最大の専門家団体」です。消費生活に関する相談の解決、消費者・行政・企業などに対して生活の安全・安心を確保するための助言・提案・教育などの活動を行っています。

団体のホームページへ

注意していても起きてしまう「誤飲事故」

宮智:子育て中の東尾さんは日常生活の中で、お子さんが誤飲・誤食しそうになるなどヒヤリとされたことはありますか?

東尾(以下、敬称略):2歳半でやんちゃ盛りの息子は、昨日できなかったことが急にできるようになって、思いもよらない行動に驚かされる毎日です。最近はわざとボールなどを口に入れて見せに来て、大人の反応を見て楽しんでいるようでして……。いかにして安全管理をするかに日々、試行錯誤しています。

宮智:山中先生は小児科医として長年、子どもの事故の予防に取り組んでおられる第一人者です。

山中:約40年、小児科医をしておりますが、誤飲する子どもは毎日診察しています。いくら注意しても起こってしまうのが誤飲事故なのです。

宮智:杉本さんは消費者の声を企業や行政へ伝える国内最大の専門家団体として、どのような活動をされていますか?

杉本:「消費者被害の未然防止・救済」「消費者教育・啓発」「消費者と企業・行政との連携」を3本柱として、安全・安心で豊かな消費生活のために活動しています。昨年は子どもの誤飲防止を目的としたパンフレットを作成しました。

宮智:「日本中毒情報センター」とはどのような機関ですか?

波多野:化学物質による急性中毒に関する情報収集・提供を専門としています。365日24時間、家庭や医療機関から電話相談を受け、データベースに蓄積された情報をもとに対処方法などをアドバイスし、「中毒110番」として知られています。

熊谷:ボール型洗剤を昨年4月に販売開始したP&Gでは創業以来、お客さまにも環境にも安全な製品を提供することを大切にし、安全対策に取り組んできました。日本発売に当たっては、すでに販売していた欧米の工業会で実績をあげている安全対策プログラムを採用しました。具体的な対策は、容器については洗剤が外から見えにくいように半透明にし、蓋(ふた)の止め部(フック)に工夫を凝らして開けにくい構造にしました。また、注意喚起のアイコンを容器の複数か所に大きく表示するとともに、製品宣伝のテレビCMとは別に消費者啓発のためのテレビCMを放映しました。さらに、日本中毒情報センターと連携して事故情報を収集し、分析・評価することでさらなる安全対策につなげています。

事故被害は5歳以下の子どもが約8割

宮智:事故の実態について教えてください。

波多野:当センターには1日に約100件、年間約3万5千件の電話相談が寄せられます。2013年のデータによると、患者の年齢は5歳以下の子どもが約8割と非常に多いです。またその場合はタバコ、化粧品、洗剤などの家庭用品が事故原因の約6割を占めます。そして「口に入れた」「なめた」「飲んだ」といった誤飲や誤食に関する相談が9割以上に上ります。その他にも「皮膚についた」「目に入った」という誤接触の事故もあります。

熊谷:日本中毒情報センターや当社のお客様相談室によせられている事故情報を見ますと、事故のケースで洗剤の保管場所として9割近くが「子どもの手の届くところ」です。そのうち半数が洗濯機近くの床にじか置きしたままということがわかっています。

杉本:メーカーの安全な製品設計は重要で、予見可能な誤使用は製品設計の段階で安全施策を講じる義務があると考えます。商品の注意書きは使う人が商品を手に取ったときにそこに目がいくように目立つデザインで、より具体的に書いていただきたいと思います。

誤飲と子どもの成長は密接に関連

東尾:息子はペットボトルのキャップやビー玉、絵本を破った紙片などを口に入れたことがありますが、いずれもすぐに気づいて出させましたので大事には至りませんでした。昨年末は父(野球解説者の東尾 修 さん)が孫へのクリスマスプレゼントとして野球盤ゲームを買ってくれたのですが、パチンコ玉ぐらいの大きさのボールを口に入れて遊ぶようになったので撤収しました。口に入る大きさのものは、子どもの手が届かない場所に隠していますが、最近は隠すところも見ているんですよ(笑)。「もう大丈夫」と思っていても、成長とともに新たに危ないことが起こるので、毎日ヒヤヒヤドキドキしています。

宮智:なぜ子どもの誤飲・誤食事故が起こるのでしょうか?

山中:子どもの事故の多くは「発達」と密接に関連しています。生後5~6か月になると、手でものをつかんで口に持っていくようになるので誤飲が起こります。お母さん方の多くは「私は子どもから目を離さないので大丈夫」と思っておられますが、私は乳児健診の際に「子どもは必ず誤飲することを認識してください」と伝えています。一生懸命に育児をし、気を付けていても、子どもの発達に伴って誤飲は起こるものなのです。

家庭では「子どもの手の届かないところに保管」

宮智:家庭内でできる予防策はどんなことがありますか?

山中:「子どもは必ず誤飲する」ということを認識したうえで、乳幼児の口に入るものの大きさ(直径約4cm)を知り、子どもの手の届かない場所に置いてください。そして最も重要なのは誤飲した場合に重症度が高い製品を知っておくこと。特に危険なものはボタン電池です。食道にとどまると非常に重篤な症状を引き起こし、死に至ることもあります。石油・ガソリンなどの有機溶剤や強酸・強アルカリの洗浄剤もリスクが高いので、十分気を付けてください。

杉本:当協会では誤飲事故を防ぐための取り組みとして、山中先生の監修のもとで啓発パンフレットを作成し、全国の保育園や幼稚園に配布しました。危険度の高いボタン電池や除光液、タバコの水溶液、灯油、洗剤など化学製品を中心に、大人への注意点や誤飲した際の対処方法を説明しています。ボール型洗剤についてもP&Gさんに情報提供をしていただきました。

波多野:当センターは、WHO(世界保健機関)で言われている「中毒事故の見張り番」としての役割があります。相談が急に増えたものがあったり、重い症状・事例が発生したものがあったりすると、行政や事業者とも連携して事故防止策や発生時の対応策を取ることによって被害の拡大を防ぎます。実際に、当センターでは厚生労働省の「家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」にデータを提供しています。これまでに防水スプレーや殺虫スプレー、洗濯用粉末洗剤などによる事故情報をもとに、使用者への注意喚起や製品改良が行われた実績があります。企業に対しても情報を提供して製品改良や注意喚起に生かされています。また、医療関係者に対しても収集した情報を学会などで報告し、保護者に対しては当センターのホームページで情報発信しています。事故を防ぐにはこのような事故が起こっている事実を保護者や医療関係者、企業、行政が知ったうえで情報を共有し、対策を考えなくてはならないと実感しています。

熊谷:当社ではボール型洗剤の開発段階で、例えば子どもが飲み込んだとしても窒息しないサイズにするなどの対策を取り、誤飲・誤食が起きても重大事故につながらないようにしました。製品の色については、EU(欧州連合)の消費者安全科学委員会が、ピンクや黒または透明といった色と誤飲・誤食の間に一貫性のある因果関係はないと報告しています。そこで、色の対策というよりはむしろ、子どもには誤食が起こることを認識したうえで、それを消費者にどう伝えていくかということに取り組み、医療関係者や消費者団体、日本中毒情報センターの協力を得ながら消費者への啓発に力を入れております。

社会全体で子どもの安全を守る

宮智:最後に、改めて気をつけたいことや保護者へのアドバイス、社会へのご提言をお願いします。

山中:生後5~6か月になると、必ず誤飲は起こるということをしっかり認識してほしいということです。一方、日本中毒情報センターが情報発信をしているにもかかわらず、そこにアクセスする人が少ないのが現状です。周知徹底するためにも、公共のメディアなどで定期的に情報を発信していただきたいです。また、保護者だけに注意喚起を強いるのではなく、社会全体で考え方を変えていくことも必要だと思います。子どもから少しぐらい目を離していても、安全な仕掛けや環境、製品を作るシステムが今、求められています。誤飲事故の原因となるもので最も危険なボタン電池については、欧米では子どもが口に入れた時に赤い液体が溶け出るようにして、保護者がすぐに気づくような仕掛けや、仮に飲み込んだとしても体内で電気が流れないような構造にしたりと、事故を未然に防ぐ対策がすでに提案されています。個人だけでは安全を確保することは非常に困難であるのが現実なのです。

杉本:メーカーは発売前の製品設計段階での十分な検証が必要であり、事故が起きた場合は原因究明をして早急に製品の改善に努めていただきたいです。情報提供と啓発は継続して行うことが重要だと思います。消費者は商品の注意書きをよく読み、その商品の特性を知ったうえで危険を回避するためにはどうしたらよいかを考えて使うことで、事故の防止につながります。そしてもし、誤飲事故があった時は、地域の消費生活センターにも情報提供してください。情報が集まれば注意喚起が発表され、事故の未然防止に役立ちます。

波多野:子どもが家庭内にある化学製品で事故に遭ってしまった時は、あわてずに当センターにご相談ください。「だれがいつ何をどのようにしたか」「今、どのような状況か」「症状があるのか、ないのか」などについて専門家が質問し、医療機関を受診すべきかどうか、経過観察する時のポイント、家庭でできる応急手当などに関してアドバイスをします。必要と思われる事例については、「その後の様子に変わりはないか」といった追跡調査も行います。

熊谷:企業として、より安全な製品を提供することは当然です。またそれとともに、我々企業が努力していかないといけないのは、より多くの消費者の方々に正しい製品の使い方や保管方法を知っていただき、製品を安全に使用していただくことだと考えています。今後も情報収集しながら、関係機関と連携して製品改良に全力で取り組んでまいります。

東尾:子育てをしていても知らないことがたくさんあり、正しい知識を得ることの大切さを実感しました。また、子どもにとっての身近な危険を改めて認識できましたので、これからはもっと気を付けようと思います。また、子どもの安全は親だけで守り切れるものではなく、社会全体で取り組んでいくという発想も勉強になりました。「子どもの誤飲・誤食は必ず起きるもの」。この山中先生のお言葉を心に留め、もし事故が起こったとしても被害を最小限にとどめるように努力していきたいです。

誤飲予防MAP

誤飲予防MAP
  • 「誤飲防止MAP」フリーダウンロード
  • 子どもを守ろう 〜誤飲は防げる〜
  • 消費者庁「子どもを事故から守る!プロジェクト」
ページの先頭へ