冬でもキレイな手元で
日本にいながら「国内の『世界遺産』は訪れたことがない」という方も意外と多いのでは?この夏に訪れたい世界遺産を写真家の三好和義さんに伺いました。東日本/西日本の2回に分けてご紹介。今回は東日本編をお届けします。
日本独自の自然や文化が凝縮されているのが世界遺産。この海外に誇る日本のエッセンスを、日本人が知らないのは非常にもったいないことです。若い頃は素通りしていたような、一目見ただけではわからない、風景の奥に隠れた歴史や文化を知る旅へ。この夏は、国内の世界遺産を味わってみませんか?
生命の神秘を学べる「東洋のガラパゴス」
小笠原諸島(東京都)
東京から約1000キロ。飛行場がないのでアクセスは週一本のフェリーのみ。父島や母島など大小30余りの島からなる小笠原諸島は、独自の進化を遂げた固有の生物や生態系の価値が認められ、2011年世界自然遺産に認定されました。誰もがなかなか行けない場所だからこそ、ここでは日常の喧騒とは無縁の、ゆったりと贅沢な時間と、極上の自然環境を味わうことができます。
どこまでも続く透明度の高いエメラルドグリーンの海の美しさは、日本にいることを忘れさせてくれます。私も世界中の“楽園”を見てきましたが、特に「南島」のビーチは「世界一のビーチではないか」と思うほど美しいビーチです。
また「東洋のガラパゴス」とも呼ばれ、独自の進化を遂げた動植物が数多く生息し、小笠原諸島の植物のうち36%が固有種。海ではジャンプするクジラやイルカの群れにも出会えます。
多様な生物の進化の過程を見られることから、「進化の実験場」とも呼ばれる小笠原諸島。なかでも母島の「乳房山」は、特別天然記念物の「ハハジマメグロ」など、ここでしか見られない貴重な自然と出合える場所です。小笠原を訪ねれば、長い年月を経て進化を継げてきた“生命の神秘”を感じ、学ぶことができるはずです。
人智を超えた荘厳な自然と向き合える
知床(北海道)
2005年、この地ならではの「生物多様性」と「生態系」が評価され、日本で三番目の世界自然遺産に認定された知床。知床五湖など湖沼や湿原の美しい風景と、1500m級の連山、そこに棲む様々な動物を間近で見ることができます。草原に跳ねるエゾシカやキタキツネ、森に入ればエゾリスやフクロウ、空を見上げれば天然記念物のオジロワシにも出会えるはずです。
観光船クルーズで周遊すれば、滝や断崖を眺めることができ、かなりの確率で海岸を歩くヒグマの姿も見ることができるでしょう。
根室海峡ではホエールウォッチング、遠くには国後島も。ネイチャーガイドと散策するエコツアーや羅臼湖のトレッキングツアーもオススメ。運が良ければ知床峠から雲海を眺めることができます。
遺産地域内には入場規制や車両規制が進められているエリアも多く、自然環境や動物たちと人間の共生がたやすい事ではないのを感じさせます。知床は人間の立ち入れない自然の偉大さ、深遠さを体で学べる場所なのです。エコツアーやトレッキングツアーのあとは、知床ウトロ温泉でゆっくり旅の疲れを癒しましょう。
日本の信仰と芸術の源泉に触れる
富士山(静岡県・山梨県)
ご来光やアウトドアで馴染みの深い富士山ですが、実は「世界自然遺産」ではなく、信仰の地として登山道を含む富士山域や神社、湖沼などを含む25の資産が「世界文化遺産」として登録されました。平安時代初期(9世紀)に富士山の噴火を鎮めるため山麓に建てられた「浅間神社」をはじめ、見どころもたくさん。また、現在でも登山道周辺には信仰に係わる石碑や各種の祭礼などが多く見られます。
新緑やラベンダーなど、四季折々に彩られる河口湖畔から見上げる富士山や、本栖湖の「逆さ富士」もまた絶景です。
『万葉集』や葛飾北斎の『富嶽三十六景』など、あらゆる芸術の題材となったその美しい姿は、今も昔も日本人の心を捉えます。富士山は日本の芸術の源泉ともいえる存在なのです。
現在も富士山に登る人は絶えません。とても身近に感じられる富士山ですが、知れば知るほど新たな発見があり、大人の知的好奇心を満足させてくれる山です。日本の信仰と芸術を担ってきた、その深遠な文化と雄大な自然をぜひ感じ、味わってみてください。
三好 和義さん